オプセル社 レポ   ( v-06_7_23 ) 発信地 伊豆半島西海岸、松崎町



  「境界というトリガー」


2006年7月23日  

ターゲットはさまざまな境界の向こうでバイトのスイッチを入れてくる。
サラシの境界、泳ぎの乱れと安定の境界、流れの境界、人的プレッシャー域と野生域の境界、昼と夜の境界、光と影の境界・・・水温と季節の境界・・・などなど、際限はない・・・。


伊豆西海岸その日の早朝
各地に災害をもたらした威力の片鱗を見せ、危ない雨はたった1時間半で中河川の那賀川、岩科川を濁流に変えていた。


今日は来る・・・! 
そう思えて心は躍った。
しかし、犠牲者も出ている雨、・・・


7月23日 午後

工房から徒歩10秒の至近距離にある那賀川がいい濁りになっている。
だが山本忙しい。
遊動メタルジグ、オスプレイ・リード(鉛充填の最高飛距離機)の型つくりも平行してやっているので昼休みはほとんどなしだ。

ユニットを作りながらボディーを組み、ホログラム処理の後カラーリング、コーティング硬化後にユニットの懸架状態確認、離脱圧調整を加えると通常より手間は掛かる。
その日、夕方にはオーダー機の調整と梱包を終え河口に向かうことにした。



午後7時すぎ

泥までいかない程よい濁り、ややゴミは混ざるものの上げ潮も相まってポイントは穏やかになりつつあった。
これは有望な状況。

対岸では相変わらず「引っ掛け」は続いている。
シーバスの活性に関係なく連夜、岩科川と那賀川の合流点にある製材所の一角から無慈悲な針が飛び、川は細かく刻まれている。
しかし魚の取り方に制限はないのだろう。

ルアーアングラーとしては電気を流されているようなものでいい環境とは言えない。
現に「引っ掛け」にしらけてルアーへの興味を失った人もいる。

こんな状況で来るだろうか・・・?

同行した塗装の山本さんは二週間ほど前、低活性の日にそのスナッガー氏の隣で見事SB/Sky-passヒットさせたが足元の杭についたカキ殻にリーダーを切断され取り込み間際のブレイクを喫していた。


すでにキャストを開始していた地元のアングラー数名の隣に入れてもらいオプセル社チームも投げ始めた。

実釣開始

しばらくして私のジャックHSにコツっとアタリが来た・・・が乗らない。
ルアーを知っている様子だ。

しかし次のリトリーブで大胆なトゥイッチングを掛けるとフッコクラスと思われるシーバスがヒット!

難なくランディングに成功!

しかし、カメラの準備にもたついているうちに跳ねて水際に転がったので足で抑えようとしたら運悪く跳ねる直前の尾を踏んでしまい、そこが基点になって大きくバク転が掛かってしまい頭から水に着水したターゲットにそのまま逃げられてしまった(ーー;)。

珍しい失敗だったが周りのアングラーからは「来るのが分かって良かったです」と慰めのフォロー(笑)。
次が来るか分からなかったがポイントはにわかにヒートアップした。

次は誰に来る?!

・・・・。

来た!

私だ・・ラッキー!

スロートゥイッチングした私のHSにガツッと先ほどと同サイズの魚が来た。
難なくランディングし今度は撮影に成功。





このポイントでは前回ヒットも含めなぜか分からないがジャックHSに分があるように感じた。

山本さんにHSへの交換を勧めた。
大型がいる可能性が濃厚なのでフリーノットでのルアー交換をすすめた。

約5分。

静かだがエネルギーが満ちたポイント。

「ドバドバドバッ」っと突然大きなエラ洗いの音があたりに響いた。

音のした方を見るとなんと山本さんのロッドが弧を描いている!

必死でロッドを支えている山本さんに駆け寄る。

よろめきながらも応戦しウィンウィンウィーンと壊れかけのモーターのようにドラッグを唸らせている!

「やったねーっ!」と声を掛けると「うん、来たみたい」 って確実に来てるし(笑)。

私の取り込みを何度か見ていたせいか大騒ぎしながらもランディングしやすい場所に誘導していった。

私は大事をとってネットを用意し水に入り進路をふさぐようにして捕獲成功!

72cm4.4キロの綺麗な平鱸だった。







物持ちが怖いとの事で私が持った。


また約5分が経過。

再びボコッ、ドバッとヒット音が響いた。
並み居るルアーマンの間でよろめきながらロッドを弓なりにしているのは又も山本さんだ!

HSが効いているのか・・・しかし腕を上げたものだ。
BFT木村さんが「長く釣れなかった人は釣り始めるとコンスタントに釣るようになる」といっていた赤川サクラマス釣りの法則を思い出した。
ほんとに山本さんはイカでも周りが釣れているのにも関わらずなんと一年以上!恐ろしいくらいにノーヒットだった。
それが・・・・今年の岩地でアオリ爆釣、そして先日のブレイクと今日のヒットは何だ?!

強い引き。時折ロッドを伸されそうになるがなんとかいなしランディングの定位置に寄せていく。
そしてネットイン!

いいサイズだ!74cm4.8k



まだ出る可能性があるので乗っている山本さんにすぐにキャスト再開してもらう。
こういうときはヒット感覚を掴んだものが連続して掛けるからだ。

内心、まさか3度目は無いとは思っていた。

が・・・!

連発でボルテージ最高潮のアングラーに並んでまたもや、山本さんがドラグを唸らせた!
これもでかい。

私はなかば呆れながらネットを持ちサポートに回った。(私は2尾目以降ほとんど投げていない(笑))

あまりの連発に若者たちもキャストを止めて観戦。
ランディング定位置の砂州に来てからもこの個体のパワーは強く、引き回されたがフッキングが完璧と分っていたので無事ずりあげランに成功!

77cm5.6kの素晴らしい平鱸だった。




テイルフックが口の内側を捉えている。フロントフックは逆クラッチフッキングしていたがランディング後に外れた。




さらにその十分後、

次は私だった。

リトリーブ終盤に隣のアングラーから話し掛けられリーリングが疎かになった一瞬フォールしたHSがギューンと持っていかれた。
慌ててアワセてヒット!

シンキング・ペンシルはこの感じでヒットしていると思われる。

泳ぎの安定性と高速性能を追及してきた私はHSとアクア・シャフトで限界に近いバランスを掴んだと思う。
それは一時保留とし、これからはその逆の方向にある「乱丁のコンセプト」を機に反映してゆければと思っている。

素性の良いボディーが素性の良いフォールを描けるかもしれないし違うかもしれないし・・・。
リトリーブという外力からリリースされた瞬間に発揮される乱丁の魅惑パワーを生むにはさらなる想像が要されるだろう。

それは作る側のみならず操作するアングラーの側にも要されるマインドであり、シンキング・ペンシルのヒットにはルアー感覚の極致と製作者との間接的コミュニケーションが含まれるはずだ。
BFTの古源さんは古源スペシャルの沈み方を発光で確認し、スカイパスシンキング・ペンシルのフォールの美味しさを直感したと言ってくれた。
このヒット感覚は私の身近では古源さん、もちろん山純さん、元BFTの加藤さんがよく理解されていると思う。

このサイズでのマックスウェイトだろう、この日、最も重いグッドサイズの平鱸 76cm5.8k


その後ポイントは沈黙。
1時間ほどヒットが遠のき、お祭りは過ぎたかな?という雰囲気。

しかし静まったかに見えるポイントで相変わらずボーグ山本のスローHSトゥイッチングはスレた個体を苛つかせていた。
(時折のアタリはボラではないのが分っていたのでおそらくだが、スレていたように思う)。

とすればこういうとき、シーバスはルアーを噛まずに鰓のあたりではたいてゆくことが多い。

方針変更
ジョバッ、ドボッと活性の上がる瞬間を狙うためにベイルを開き人差し指にラインを掛けたまま待機。
数分後、射程内にライズが発生!
その向こう側数m先にサミングをいれ、いとふけを出さぬよう素早くHSを投入。

着水と同時に軽くトゥイッチングを入れるとゴンと重いショックがロッドを震わせた。
ショックのまま竿が絞られてターゲットが走り始めた。

ヒットーッ!

素早くアワセたが一瞬ドラグが鳴っただけで関係なく走っている。

し、しかし・・・なんだこの引きは!
フィン、フィンフィーン、と異様な音を立てながらどでかい引きが開始されたのだ。

エラ洗いは一切無し。
少しづつドラグを入れてゆくがまるで関係ない。

やつにしか出せないトルク! ・・・これはエイ・・・?
一瞬いやな予感・・・ 

・・・しかし・・・速度が速すぎる・・・。

すでに10フィートメディアムロッドはバット部から曲がっている。
ロックさせれば傷が破れるかラインが切れる恐れがあった。

上流側の堰の下に来たターゲットは多くのギャラリーが見守るなか一向に弱る気配も無く「おーっ!おーっ!」っとどよめきを起こしながら地すべりのような走行でボーグ山本を引き回した。

「エイだよ、エイ」といいながら私は大型のコイか平鱸のスレだと思い始めていた。
ただあのライズはコイじゃないと思った。

しかしここは川だ。
内水面でこんな引き合いになるとは思っていなかった。

ターゲットは弱らないトルクと速度を保ったまま私の予想を上回る持久力で50m下流の「引っ掛け」のほうに向かって走っていった。
「引っ掛け」と祭ったら面倒だ。

「そっちに行ってるから投げるなよーっ!」と叫びながら砂州へのランを決行。

意を決してトルクを乗せ寄せに入る。
接近したターゲットにライトを当てるとやはり、スレだ。
エイではなく平鱸。

今度は塗装の山本さんが見事にネットを決めてくれた。

72cm4.4キロ平鱸・・・意外だった!


(背中の中央付近に少し傷が見える)

そのスレフッキングは背中の中央部の天辺。
フックユニットも離脱していない。
これだと出血も無くウォブリングのセンターがぶれず、泳ぎが安定するためにフルに泳げるのだろう。

たとえば超でかいバイブレーションを引いているようなものだ。
そいつにエンジンがついて走りまくったのだからたまらない!

しかも呼吸には一切関係ないので疲れにくいはずだ。
そして心理的に、背中をつかまれるということが必死にさせたかもしれない。
余計に逃げたくなっただろう。

これがウルトラばしりの原因だと思われた。
4キロのエイより4キロの平鱸のほうが実力は上だと思った。
改めて口への異物感と口を引くことにより泳ぎのバランスを乱すことで平鱸のパワーがそがれていることを実感。

口にかんぬきがかかればなお引きは弱くなるだろう。
やつらはほんとは凄いパワーを持っているのだ。



今回の濁りで私の知りえた那賀川での全ヒットは10。

うち2尾が「引っ掛け」によるもの、
1ヒットは地元アングラーの伊藤さん、だが惜しくもバラシ、
1ランディングをボーグ山本がゲットするも直後にバラシ(リリース(笑))、
6尾をオプセル社チームがランというものだった。



ジャックHSが今回も幸運を引き出したと言っていいだろう。

しかしそれも濁りがあってこそのもの。

濁りとクリアーという境界。

クリアーになればまたギャングスナッガーの針に陥ちる個体が続出するだろう。

「ヒットは様々な境界の向こう側で起こる・・・」

今回のヒットは「濁り」という古来から強化されてきた捕食本能を引き金に起動したものである。

それはクリアーの向こう側というコンセプト。

がそれはまた災害という憂うべき事象の手前に存在していたことも忘れてはならない。
平鱸がバイトを仕掛けてくるあの闇の静寂は、危ういバランスの上に成立しているのだ。

そして境界というコンセプトそのものにも反次元が存在する。
それが「引っ掛け」の世界である。

平鱸は食しても美味であり、買い取られても高価であり、リリースが必須とは言えまい。
獲るという結果において「引っ掛け」と変わるものではない。

しかしターゲット側に一切のハンディーを与えない「引っ掛け」はダイナマイト漁ほどではないにしても資源枯渇に及ぶ脅威といえるだろう。
なぜなら境界というバランスを内包しない釣法には際限が無いからである。

ルアーマンはあらゆる「境界」を感覚しフィールドと対話する人々だ。

・・・コミュニケーションイズラブ・・・

交信のないワンサイドパワーには抗議したい。
ターゲットを独占し富を得たい気持ちもわからないではないが、「引っ掛け」に気後れしてルアーマンが減るのは寂しいことである。

何気ないフィールドを魅力で満たしてくれるターゲット。

彼らと出会える環境が嬉しい。
シーバスが交信してくれる環境が嬉しい。



ボーグ山本



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2006年7月6日  「闇への回帰」